業界の対応戦略―外部管理者方式が急拡大する構図
役員のなり手不足と意思決定責任の重圧を背景に、管理業界では「外部管理者方式(第三者管理方式)」の急速な普及が進んでいる。これは管理組合の理事長・管理者を、区分所有者ではなく管理会社やマンション管理士などの外部専門家が担う形態だ。2025年5月23日に成立した改正区分所有法およびマンション管理適正化法でその法的位置づけが整理されたことで、参入企業数が前年比で3割超増加するなど業界の動きが加速している。
とりわけ注目されるのが、AIエージェントを活用した外部管理者サービスの登場だ。2025年後半から複数の管理会社が、AIによる議事録自動生成・修繕計画の自動更新・積立金残高のリアルタイム可視化などを組み込んだサービスを試験展開し始めている。「AIが理事会の代わりに修繕判断の材料を整理し、外部管理者が最終決定を行う」という形態は、役員不在のマンションを支える現実解として受け入れられつつある。
しかしここに、新たな利益相反リスクが潜む。管理会社が外部管理者を兼ねる「管理業者管理者方式」では、管理会社自身が大規模修繕工事の発注先を選定するという構図が生まれる。「発注者」と「受注者」を同一業者が兼ねることへの批判は根強く、国土交通省も2026年4月の改正管理適正化法施行にあわせてこの利益相反リスクへの規制強化ガイドラインを策定した。それでも「管理会社が責任を肩代わりしてくれる」という管理組合の需要は衰えず、国交省の2023年12月調査では管理業者のうち約3割が第三者管理者方式を導入済みと回答しており、その後も増加傾向が続いている。
こうした利益相反問題を背景に、管理会社ではなく中立的な専門家が理事長業務を担う新たな仕組みが注目を集めている。一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)が打ち出した**「認定理事長方式」**だ。全建センターが認定するマンション管理士—AIを駆使できるベテランの専門家——が管理組合の理事長業務を代行することで、理事長不足や運営負担の軽減を図り、継続的かつ安定した管理体制の構築を支援する。管理会社とは独立した第三者が理事長を担うため、工事発注における利益相反が構造的に排除される点が、管理業者管理者方式との最大の違いだ。この認定理事長方式の詳細は、6月28日に開催される「第81回管理組合オンラインセミナー」で明らかにされる予定であり、業界からの注目度は高い。【概要説明を見る】
https://z-book.jp/2026-05ntrt/
この現象を業界構造として見ると、外部管理者の「質」をめぐる競争が始まっていると言える。本来は区分所有者が自ら担うべきガバナンス機能を外部に委ねる流れは止まらないが、「誰が担うか」「利害関係はないか」という問いがより重要になっている。管理会社主導の「役員責任の商品化」に対し、認定専門家による「中立的ガバナンスの提供」という対抗軸が生まれつつあるのだ。
新しい法制度―約20年ぶりの区分所有法大改正が変える責任の風景
2025年5月23日に成立し、2026年4月1日に全面施行された改正区分所有法は、前回の大改正(2002年)から約20〜23年ぶりとなる大幅な法改正だ。老朽マンションの建て替え・解体の決議要件緩和が注目を集めているが、管理組合ガバナンスの観点から見逃せないのが管理者の権限と責任に関する規定の整備だ。
改正法では、管理者(理事長)が区分所有者の損害賠償請求権を代理行使できることが明文化されるなど、管理者の権限と責任の範囲がより明確に規定された。これは管理組合運営の透明化という観点では前進だが、同時に「役員が訴えられる根拠」が法的に整備されたことも意味する。修繕工事に関する判断ミスが民事訴訟の争点になりやすい環境が整ったのだ。
改正法の施行を受け、法曹界ではすでに「修繕遅延による外壁崩落事故」「積立金の流用・横領」「業者選定における利益相反」などを争点とした管理組合関連訴訟の増加を見込む動きが出ている。かつては「隣人トラブル」として泣き寝入りで終わっていた案件が、明確化された管理者の権限・責任規定を根拠に訴訟化するケースが今後増えることが予想される。
修繕積立金の扱いについても、制度上の変化が進行中だ。改正法では積立金の使途に「再生に向けた調査費・設計費への充当」「改良工事への使用」「管理・運用費への充当」が明示的に認められた。一見すると柔軟化に映るが、その裏面では「目的外使用」の認定ラインが厳格化しており、役員が積立金を不適切に支出した場合の法的追及がより容易になった。
さらに注目すべきは、管理計画認定制度との連動だ。国交省が2022年から運用する「管理計画認定制度」は、修繕積立金の適正な積み立てや長期修繕計画の適正な更新を認定基準としており、未認定マンションは資産価値に影響が出始めている。将来的にこの認定が実質的に義務化され、修繕積立金の管理が国家基準に縛られる「修繕積立金の国家管理化」への誘導が進んでいるとする見方もある。住民自治の原則で運営されてきたマンション管理が、法制度によって外から統治される構造へと静かに転換しつつある。
おわりに―自治の「空洞化」か、それとも「進化」か
修繕周期の柔軟化は、建物の維持管理を合理化するための善意の政策だった。しかし結果として、素人役員には担いきれない意思決定責任を生み出し、外部管理者市場の拡大と住民自治の後退を招いている。区分所有法改正による管理者権限・責任の明確化は、法的透明性をもたらしつつも、役員になることへの心理的ハードルをさらに押し上げている。
制度の複雑化が担い手を追い出し、担い手の不在がさらなる制度介入を呼ぶ——この構造を断ち切るには、「管理組合の自治をどこまで維持するか」という根本的な問い直しが必要だ。全建センターの認定理事長方式が示すように、「外部に委ねること」と「住民自治を守ること」は二律背反ではない。中立的な専門家が透明性の高いプロセスで理事長業務を担い、住民が意思決定の主体として残る形こそが、複数修繕時代の管理組合ガバナンスの一つの答えかもしれない。
AIと外部専門家への依存を深めることが「自治の空洞化」なのか「自治の進化」なのか。その答えは、仕組みの設計思想と、それを選ぶ住民の主体性にかかっている。
関連リンク・出典
国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定)」
改正区分所有法(令和7年5月23日成立・令和8年4月1日施行)
改正マンション管理適正化法(令和7年5月23日成立・令和8年4月1日施行)
国土交通省「第三者管理者方式に関する実態調査(令和5年12月)」
一般社団法人全国建物調査診断センター「第81回管理組合オンラインセミナー」(2026年6月28日開催予定)https://zenken-center.com/81sm/
大規模修繕工事新聞「修繕周期の柔軟化で管理組合の長期修繕計画はどう変わるか」https://daikibo.jp.net/archives/17664