<第02号>2026-04-15

区分所有法大改正、いよいよ施行──管理組合はいま何をすべきか

令和7年(2025年)法律第47号 / 2026年4月1日施行

2026年4月1日、「建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第47号)が施行された。2002年(平成14年)以来、約24年ぶりの大規模改正である。

全国のマンション戸数は約694万戸。そのうち約1,500万人、国民の約12%がマンションに居住している。一方で、築40年超の高経年マンションはすでに137万戸に達し、20年後には3.4倍の467万戸に膨らむと試算されている。さらに築40年超マンションでは、世帯主が70歳以上という世帯が半数を超える。「建物の老朽化」と「住民の高齢化」という「二つの老い」が同時進行する中、旧来の多数決ルールのまま管理・再生を進めることはもはや限界に達していた。

この厳しい現実を受け、2025年5月23日に国会で可決・成立した改正法は、①決議要件の緩和、②再生手法の多様化、③管理計画認定制度の拡充を三本柱とする抜本的な制度改革だ。改正の所管は法務省(区分所有法の条文改正・権利関係)と国土交通省(マンション管理適正化法・標準管理規約)の両省にまたがる。

施行直後のいまこそ、管理組合は何が変わったのかを正確に理解し、次の一手を打つ必要がある。本稿では改正の全体像から実務対応まで、順を追って解説する。

改正の背景と全体像

「二つの老い」が生んだ構造的危機
日本のマンションは高度経済成長期以降に急増し、現在では約694万戸が供給されてきた。老朽化した建物の増加と区分所有者の高齢化・不在化が重なることで、次のような問題が顕在化してきた。

総会への無関心・欠席者が増え、修繕工事の決議すら成立しない
相続未了・住所不明の区分所有者が増え、所在確認に膨大な手間がかかる
役員の担い手が見つからず、理事会が機能不全に陥る
修繕積立金が慢性的に不足し、大規模修繕の見通しが立たない
こうした危機を受け、国は「区分所有建物の新築から再生までのライフサイクル全体を見通して、その管理及び再生の円滑化を図ること」を目的に改正法を立案・成立させた。

 

法務省と国土交通省の役割分担
今回の改正は二省体制で推進された。

所管省庁 ・担当内容

法務省:区分所有法本体の条文改正(権利関係・決議要件・新たな再生手法の創設)
国土交通省 :マンション管理適正化法改正・マンション標準管理規約の改正・管理計画認定制度の拡充 

法務省は「所有者の権利をどう調整するか」という法律論を、国交省は「管理組合の実務をどう回すか」という政策面を担う形だ。区分所有法改正と管理適正化法改正は相互補完的に設計されており、どちらか一方だけを理解するのでは不十分である。

 

主要改正内容の詳細解説

 

① 決議要件の大転換──出席者多数決への移行
今回の改正で最も日常の総会運営に影響するのが、決議の分母変更である。

改正前では、ほぼすべての決議において「全区分所有者」を分母にして多数決を計算していた。そのため、無関心な所有者や所在不明の区分所有者も実質的に「欠席による否決」として扱われていた。

改正後(第39条)では、区分所有権の処分を伴わない通常の管理行為(修繕工事など)の決議について、「集会に出席した区分所有者及びその議決権の各過半数」に変更された。ここで「出席した」には、実際の会場出席のほか、書面投票(議決権行使書)、委任状提出、代理人による行使も含まれる。欠席・未回答者は分母に入らない。

実際の影響は大きい。例えば5名の区分所有者のうち3名が出席(書面投票含む)し、うち2名が賛成した場合、改正前は5分の2で否決だったが、改正後は出席者3名中2名の賛成で可決となる。

② 所在不明区分所有者の除外制度(新設)
連絡が取れない区分所有者の増加に対応するため、第38条の2が新設された。相当な努力を払っても所在が判明しない区分所有者(管理費等の滞納や1年以上の連絡途絶など)については、管理者(理事長)または一般区分所有者が裁判所に申立て、認定を受けることで、全ての決議の母数(分母)から除外することができるようになった。

ただし、この制度を適用するには裁判所の認定が必要であり、「相当な努力」の内容・範囲については後日の法的検証に耐え得るよう、調査過程を記録することが重要とされている。

 

③ 建替え決議の要件緩和(条件付き3/4への緩和)
建替え決議の原則要件は従来通り「4/5以上」を維持しつつも、次の5つの要件のいずれかに該当する場合は「3/4以上」に緩和された(改正後第62条第2項)。

耐震性の不足
火災に対する安全性の不足
外壁等の剥離による周辺への危害のおそれ
給排水管等の腐食等による著しい衛生上の問題
バリアフリー基準への不適合
これにより、老朽化が進んだ高経年マンションにおいて、建替え決議のハードルが現実的なレベルに下がった。

 

④ 新たな再生手法の創設(4つの新決議)
「建替え」しかなかった再生の選択肢が大幅に拡充された。原則として4/5以上の多数決(一定事由該当時は3/4以上)で、以下の決議が可能になった。


改正前はこれらの行為にはすべて区分所有者全員の合意が必要だったが、改正後は4/5以上の多数決で実行可能となった。老朽化マンションにとって現実的な「出口戦略」が法的に整備されたことは、業界にとって画期的な変化である。

 

⑤ 管理不全マンションへの対応強化(財産管理制度の新設)
「ゴミ屋敷」化した専有部分や、放置された共用部分などに対応するため、裁判所が選任する管理人に専有部分・共用部分の管理を命ずる制度が新設された(第46条の8・第46条の13)。裁判所の許可のもと、ゴミの処分や補修だけでなく、専有部分の売却まで管理人に委ねることができる。

また、国外に居住する区分所有者に対して、国内管理人の選任を可能とする規定(第6条の2)も創設された。海外赴任者や外国籍オーナーが増加する中、「連絡が取れない所有者」問題の実効的な解決策となる。

 

マンション標準管理規約の改正ポイント
2025年10月17日に改正標準管理規約を公表

改正区分所有法の施行に先行する形で、国土交通省は2025年10月17日、マンション標準管理規約(単棟型)の改正案を公表した。管理規約はマンションごとに異なるが、標準管理規約はそのひな形として広く参照されており、改正内容は全国の管理組合に直接影響する。

見直しが求められる20項目とその分類
専門家が整理する「見直しておきたい項目」は20項目に及ぶ。強行規定(法律によって強制的に適用され、規約で変更できない規定)と任意規定(管理組合の合意で変更可能)に分類される。

強行規定(5項目)──規約の改定にかかわらず自動的に新法が適用される


任意規定(15項目)──法律違反ではないが、早期整備が望ましい項目

不在者・管理者規定
保存行為の実施請求
再生・売却制度
役員の代理・資格
本人確認と個人情報
工事の事前承認義務
細則への委任規定
構造躯体の保全義務
配管の管理区分と更新
立ち入り権限
窓・サッシの改良
共用設備の管理責任
ペット飼育細則
バルコニー使用制限
喫煙ルールの整備

 

「強行規定だから規約を変えなくていい」は危険

重要なのは、強行規定については管理規約が改定されていなくても新法が優先適用される点だ。しかし、旧条文のまま総会を運営すると次のリスクが生じる。

「出席者4/3か、全体の4/3か」で議場が混乱し、決議が無効になるおそれ
不動産取引時に「管理水準が低い」と外部から評価される可能性
管理計画認定制度の審査で不利になる
マンション管理コンサルタントは「強行規定であることを盾に旧規約のまま強引に決議を進めると、住民からの信頼を失い、後から無効を争われるリスクがある」と指摘する。4月以降に招集通知を発送して総会を開催し、改正標準管理規約に準拠した内容に改定することが望ましい。

 

管理組合・区分所有者への影響と懸念点
意思決定は加速するが、責任も増大する
今回の改正は、管理組合の「統治力」を大幅に高める内容だ。無関心・不在の区分所有者が決議の障害になりにくくなり、修繕や再生に向けた意思決定がスムーズになる。これは多くの管理組合が長年望んでいた変化でもある。

一方で、弁護士からは次の懸念も示されている。

懸念①:決議の有効性を巡るトラブルの増加 出席者多数決への移行により、欠席者が「十分な説明がなかった」「手続きが適切でない」と主張して決議無効を争うケースが増える可能性がある。理事会は単に可決させるだけでなく、後から見ても適法・合理的と説明できる記録と説明責任が以前より重要になる。

懸念②:少数派の権利保護 分母が「出席者」に変わったことで、参加しなかった区分所有者の意向が反映されにくくなる。特に建替えや一棟売却など財産権に直結する重大決議では、欠席した少数派区分所有者が後から「知らなかった」「同意していない」と訴える事態も想定される。説明会の開催や個別通知など、より丁寧な情報共有が管理組合に求められる。

懸念③:理事・役員個人の法的リスク増大 意思決定の速度が上がった分、理事の判断が直接結果に結びつく。手続不備や説明不足が認定されれば、役員個人への損害賠償請求に発展するリスクも高まる。マンション管理専門の弁護士を顧問として持つ管理組合の重要性が増している。

懸念④:管理会社との関係悪化リスク 改正マンション管理適正化法の省令(令和7年国土交通省令第102号、2026年4月施行)では、外部管理者方式(管理業者が区分所有法上の管理者に就任するいわゆる「管理業者管理者方式」)に関するルールが法制化された。コンプライアンス対応や人材不足を背景に、一部の管理会社では小規模・築古マンションからの撤退(委託契約終了)の動きが加速している。管理会社の撤退は、施行前から業界内で「大撤退」とも言われるほど深刻化しており、法改正がそれに拍車をかける形になっている。

 

今すぐ管理組合がすべきこと
Step 1:管理規約の現状確認
まず手元の管理規約の以下の条文を確認する。

「総会の招集通知期間」:「5日前」などの記載は改正後は「1週間前」が必要
「決議要件」:「総数の4/3以上」等の記載は出席者ベースへの改定が望ましい
「建替え・再生」:旧決議手続しか規定がない場合、新手法の追加を検討
強行規定は自動適用されるが、規約の文言との齟齬が現場の混乱を生む。早期に改正標準管理規約(国土交通省ウェブサイトで公開中)と照合することが第一歩だ。

Step 2:規約改定の総会を計画する
4月1日以降に招集通知を発送して開催する総会から、新法要件が適用される。施行後に総会を招集し、改正標準管理規約に準拠した内容に管理規約を変更する議案を上程するのが現実的だ。

なお、改定総会を施行前(3月31日以前)に開催する場合は「この改正は令和8年4月1日から効力を発する」と議案書に明記する必要がある。

Step 3:専門家との連携体制を整える
改正法対応は、法律知識のない管理組合だけで完結するのは難しい。マンション管理士、弁護士、宅地建物取引士など専門家のサポートを活用することを強くすすめる。特に、建替え・一棟リノベーション・敷地売却など大規模再生を検討する管理組合は、準備段階から弁護士を関与させることがトラブル防止の鍵となる。

Step 4:長期修繕計画と修繕積立金の見直し
改正マンション管理適正化法(令和6年法律第31号、一部2025年11月28日施行)のもと、管理計画認定制度が強化されている。認定取得のためには、長期修繕計画が30年以上の期間で作成されていること、修繕積立金の額が国交省ガイドラインの目安(月額170〜270円/㎡程度)を下回っていないことなどが求められる。認定を受けることで住宅ローンの金利優遇や資産価値の維持・向上につながるメリットもある。現在の積立額が不足している場合は、今期の総会での値上げ議案を検討したい。

Step 5:所在不明区分所有者の実態把握
新設された「所在等不明区分所有者除外制度」を活用するには、事前の調査記録が不可欠だ。連絡が取れていない区分所有者については、①郵便の送達状況、②管理費の滞納記録、③過去の連絡履歴などを整備しておくことが、将来の裁判所申立てを見据えた準備となる。

 

まとめ
2026年4月1日施行の区分所有法改正は、マンション管理を取り巻く法制度を根本から変える歴史的な改正だ。要点を整理すると以下のとおりである。

1.決議の分母が変わった:出席者を基準とした多数決により、無関心・不在の区分所有者が障害にならなくなった。
2.再生の選択肢が増えた:一棟リノベーション・建物敷地売却・建物取壊しが多数決で実施可能になった。
3.管理不全への対処が強化された:裁判所が選任する管理人が専有部分を管理・売却できる制度が創設された。
4.管理規約の早期改定が急務:特に強行規定5項目については、規約との齟齬が訴訟リスクに直結する。
5.説明責任が増した:意思決定の速度が上がる分、手続の適法性と記録の整備が管理組合の新たな責任となった。

「決められないマンション管理組合をなくす」という改正の目的は明確だ。しかし、制度は整っても「現場」は自動で動かない。改正の恩恵を最大限に活かし、リスクを最小化するために、管理組合の理事・役員が主体的に動き出すことが、2026年のいま最も求められている。


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発行日: 2026年4月14日

 

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