<第03号>2026-04-17

2025年3月4日の公正取引委員会による一斉立ち入り検査から、1年以上が経過した。大京穴吹建設、建装工業、長谷工リフォームをはじめとする30社超が調査対象となり、設計コンサルタントにまで調査の手が伸びた「業界最大規模」の談合疑惑事件。しかし、2026年4月現在、公取委のホームページには大規模修繕工事に関する排除措置命令・課徴金納付命令のプレスリリースは一切出ていない。

正式処分はいつ出るのか。管理組合は処分後に何ができるのか。沈黙を続ける公取委に、業界と全国のマンション管理組合が固唾をのんで注目している。

処分が出ない「空白の1年」の意味
公取委のサイトに「大規模修繕」は載っていない
 2026年3月現在、公正取引委員会の報道発表資料(排除措置命令・課徴金納付命令関連)に、大規模修繕工事の談合に関するプレスリリースは存在しない。同時期に他の談合事件では着実に処分が出ている——たとえば機械式駐車装置メーカーへの排除措置命令(2025年3月24日)、香川県発注工事をめぐる談合への排除命令(2026年3月)—に対し、大規模修繕案件の「静寂」は際立っている。

 これは手続上おかしなことではない。公取委の審査手続きでは、立ち入り検査後に①証拠収集・関係者ヒアリング、②審査官による違反事実の確認、③排除措置命令案の事前通知と事業者への意見申述機会の付与、という段階を経て初めて最終処分が下される。関係者の数が多く、違反期間が「数十年にわたる」と疑われる本件では、証拠の膨大さと当事者の多さが審査期間を押し上げることは避けられない。

 業界関係者の間では「今春にも処分が下される」との観測が年初から流れていたが、それも実現しないまま春が過ぎようとしている。ある専門家は「課徴金の総額が過去最大級になりうる規模だからこそ、公取委は慎重に証拠を積み上げている」と語る。

「数十年前から」という認定の難しさ
 今回の事件の特異性のひとつは、談合が「数十年にわたって行われていた」との疑いだ。通常の談合調査では、違反行為の終了から7年以内でなければ排除措置命令を出せない(除斥期間)。今回は現在進行形の疑いであるため除斥期間の問題は少ないと見られるが、歴史的な受注調整の全容を法的に認定するためには緻密な立証が求められる。

 対象企業数が30社超に及ぶことも審査の複雑性を増す。全社について個別に違反行為の認定を行い、各社の課徴金計算の基礎となる「違反売上額」を確定させる作業は、規模の大きさに比例して時間がかかる。

 
設計コンサルへの調査拡大が持つ意義
「工事業者だけでない」という公取委のメッセージ
 2025年3月末、公取委は施工業者への立ち入り検査と並行して、設計コンサルタント会社数社への事情聴取を実施し、翔設計(渋谷区)に対して資料提供を要請した(NHK・日経クロステック報道)。

 この動きは業界関係者に強いシグナルを送った。設計コンサルタントは独占禁止法上の「事業者」であり、談合を「そそのかした」「助長した」と認定されれば、独禁法19条(不公正な取引方法)または共同行為への関与として法的責任を問われうる。公取委がコンサルへの調査に踏み込んだことは、「施工業者の受注調整を裏で仕切っていた者」まで射程に入れた捜査姿勢を示している。

「黒幕」の法的責任が問えるか
 業界専門家が長年指摘してきた問題がある。設計コンサルタントが業者選定権を握り、施工業者からキックバックを受け取る—この構造こそが談合の温床だという指摘だ。しかし従来、コンサルタントは「第三者」として法的責任を問われにくかった。

 今回、公取委がコンサルへの資料提供要請という形で調査の手を伸ばしたことは、「黒幕構造に対して独禁法がどこまで機能するか」という観点から歴史的に注目される。正式処分にコンサルタントへの措置が含まれるかどうかは、今後の管理組合による発注改革の指針にもなり得る。

 
処分後に管理組合は違約金を請求できるか
国交省推奨の「談合違約金特約条項」の論点
 2025年6月26日、国土交通省は各管理関連団体に対し「談合違約金特約条項」の導入を推奨する事務連絡を発出した。内容は、公取委の排除措置命令や刑事判決等により談合が確定した場合、受注者が発注者(管理組合)に契約金額の10%相当を違約金として支払う義務を定めるものだ。

 処分が確定すれば、この条項を過去の契約に遡及適用できるかどうかが管理組合にとって最大の関心事となる。結論からいえば、遡及適用は原則として困難だ。違約金条項は新たに契約書に盛り込んで初めて効力を持つ。過去に締結した契約に当然に適用されるわけではなく、条項のない旧来の契約に基づいて違約金を請求することはできない。

不当利得返還請求・損害賠償という道
 ただし、管理組合に手段がないわけではない。談合による損害の回復を目指す法的手段として、以下が考えられる。

① 不当利得返還請求(民法703条):談合によって不当に取得された利得の返還を求める。談合が認定された場合、適正価格との差額分が「法律上の原因なく得た利得」に当たると主張できる余地がある。

② 損害賠償請求(民法709条・独禁法25条):談合により損害を被ったことを立証して賠償を求める。独禁法25条は無過失責任を定めており、故意・過失の立証が不要なため、独禁法違反の確定後は請求しやすくなる。

 実際に訴訟を起こすには弁護士費用・時間・適正価格の立証という高いハードルがあるが、公取委の最終処分という「事実認定のベース」が確定すれば、損害賠償を認める司法判断が出やすくなることは確かだ。複数の管理組合が連携して集団訴訟に踏み切る動きが出てくる可能性もある。

 
まとめ―「処分待ち」を待つだけでなく
 処分が出るまでの間も、管理組合が取れる行動はある。今後の工事契約に談合違約金条項を盛り込むこと、コンサルタント選定を透明化すること、過去の工事費が相場と乖離していないかを第三者に検証させること——こうした「平時の備え」が、処分確定後に動ける態勢を整えることにつながる。

 「正式処分がいつ出るか」は公取委のみが知ることだ。しかし処分後に「知らなかった」では済まされない時代が来ている。業界の緊張が続く今こそ、管理組合が主体的に動く最大のチャンスでもある。

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発行日: 2026年4月17日

 

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